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胎児の死亡

民法721条では、「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす」と定められていますが、胎児の時点で死亡した場合には、同条によっても胎児自身の損害賠償請求権は認められません。胎児が取得した損害賠償請求権を父母が相続するということにはならないからです。
法的には母親に対する傷害としか評価し得ない(民法711条の他人の生命に胎児の生命は含まれません)ということになります。

 
一般的には、母親の傷害慰謝料を算定する一考慮要素とされていますが、父親について近親者固有の慰謝料が請求された事案についてはおおむね肯定されています。その他の親族の方について、容認されることは難しいと考えられます。
 
刑事責任については、胎児はまだ生まれておらず人としてみなされないため(刑法上において、胎児が人として権利能力の主体となるには、母体から露出していなければなりません。)流産となった場合でも、加害者に対し胎児の死亡について刑事責任を問うことはできません。
 
また、交通事故の慰謝料の金額については多くが基準化されていますが、胎児が死産した場合の慰謝料の金額について、基準化はされていません。

交通事故と流産の因果関係について

自然流産の場合において事実的因果関係については、
① 事故による(主に腹部への)衝撃が相当程度のものであったか否か
② 事故以外に流産の原因となるような事情(妊娠初期である等)が存するか否か
③ 事故から間もない流産であるか
上記の関係事情を総合して認定されています。

熊本地判令和2・1・31自保ジ2073号103頁は、軽微衝突の事案について、「腹部その他の身体に、日常生活上で生じる外力を超えるような外力が及んだとは認められないが、本件事故の発生自体が非日常的な事柄であり、その後警察官の事情聴取に応じる必要があるなど非日常的な負担を生じることにも照らすと、本件事故による原告のストレスは妊娠生活上のストレスとは異質のものであったと考えるのが自然である。本件事故後に原告の切迫早産の兆候が強まったことは、本件事故による原告のストレスも要因であったと考えられ、本件事故との因果関係を認めるのが相当である」として、事故に起因するストレスに着目しています。

妊娠初期における母体へのレントゲン照射や投薬にかかる催奇性への懸念等を理由とする人口妊娠中絶についても、一般的観点からすると、相当因果関係が認め得ます。

時期における裁判例

妊娠初期
妊娠初期の3ヶ月頃までは、自然流産の可能性も低くありません。
妊娠2ヶ月の胎児が死亡した事案について傷害慰謝料とは別として150万円を認定した例の大阪地判平成8・5・31 交民29巻3号830頁があります。
妊娠中期(安定期)
胎盤が完成して自然流産をしにくくなっている時期に入っていたということも、それまでよりも高額な慰謝料が認められるべき事情といえます。人工妊娠中絶が認められる胎児が、母体外において、生命を保持することのできない時期」は通常妊娠満22週未満とされており、そのような時期を脱していたということも、それまでよりも高額の慰謝料が認められるべき事情といえます。
妊娠27週の胎児が死亡した事案について250万円を認定した例として、横浜地判平成10・9・3 自保ジ1274号2頁があります。
妊娠後期
生規産の時期に入った胎児は、胎児が正常に出産される蓋然性が高い状態に至っていたものであり、それまでよりも高額の慰謝料が認められるべき事情といえます。
妊娠36週の胎児が死亡した事案について母親に700万円、父親に300万円を認定した例として、東京地判平成11・6・1 交民32巻3号856頁があります。
出産直前

出産直前の胎児は、法律上の人格を有する胎児と同一に取り扱うことはできないとしても、実質的に新生児と紙一重の状態にあったものといえます。

出産予定日4日前の胎児が死亡した事案について、傷害慰謝料とは別として、800万円を認定した例として、高松高判平成4・9・17 自保ジ994号2頁があります。

事故後に胎児が(短時間でも)生きた状態で母体外に出た場合

胎児が事故後に出生してから交通事故による治療を受けたり後遺症が残ったり死亡した場合には、基本的に新生児が交通事故に遭った時と同様に治療費、慰謝料、逸失利益、葬儀費用その他の賠償が認められます。(最判平成18・3・28 民集60巻3号875頁等)

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