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下肢の障害と労働能力喪失への影響

後遺障害が認定された場合、等級に応じた後遺障害逸失利益を損害として認定するのが一般的な実務です。

しかし、例外的な対応を検討しなければいけない場合も多くあります。どのような対応が考えられるか、弁護士法人オリオン法律事務所が詳しく解説いたします。

  • 労働能力喪失率の認定方法 → こちら
  • 被害者に減収がない場合の喪失率の認定 → こちら
  • 被害者の職業に応じた喪失率の認定 → こちら
  • 被害者の具体的な症状に応じた喪失率の認定 → こちら
  • 労働能力喪失期間の認定 → こちら
  • 外貌醜状と労働能力喪失への影響 → こちら
  • 鎖骨変形、骨盤骨変形の障害と労働能力喪失への影響 → こちら

  • 脊柱その他の体幹骨の障害と労働能力喪失への影響 → こちら
  • 【本記事】下肢の障害と労働能力喪失への影響
  • 嗅覚・味覚障害、歯牙障害、脾臓喪失と労働能力喪失への影響 → こちら

腓骨の偽関節

偽関節(仮関節)とは、一般的に、骨折等による骨片間の癒合機転が止まって異常可動を示すものをいい、後遺障害認定基準上、変形障害に分類されています。

下肢の変形障害は、後遺障害等級表上、

  • 1下肢に偽関節を残し著しい運動障害を残すものが7級(労働能力喪失率56%)
  • 1下肢に偽関節を残すものが8級(同45%)
  • 長管骨に変形を残すものが12級(同14%)

に、それぞれ位置付けられています。

これを前提として、自賠責制度が準拠する労災制度の障害等級認定基準により、以前は

  • 大腿骨に偽関節を残すもの、脛骨及び腓骨の両方に偽関節を残すものが7級
  • 脛骨若しくは腓骨のいずれか一方に偽関節を残すものが8級

に、それぞれ該当するとの取扱いがされていましたが、同時に、腓骨の偽関節に関する取扱いは過大評価である等の見解もありました。

そのような中、平成16年2月に整形外科の障害認定に関する専門委員会が、

  • 下肢の長管骨のうち立位や歩行に重要な役割を呆たしているものは大腿骨と脛骨である、
  • 腓骨は脛骨と比べ細い骨であり、脛骨のいわば添え木のような役割を呆たし下肢の支持機能に与える影響はわずかであると考えられる、
  • 腓骨の偽関節は歩行に対しほとんど影響を与えないものと考えられている

等といった理解に立脚して報告書を取りまとめました。
これに沿って平成16
年6月4日付け厚生労働省労働基準局長通達「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(基発第0604003号)により障害等級認定基準が見直され、自賠責制度でも、労災制度と同様の取扱いがされるようになった。

この結果、平成16年7月1日以降に発生した交通事故により下腿骨に偽関節を残存した場合には、以下のとおり等級認定されることになりました。

  • 大腿骨の骨幹部又は骨幹端部(以下「骨幹部等」という)に癒合不全(骨片間の癒合機転が止まって異常可動を示す状態をいう)を残すもの、脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの、脛骨の骨幹部等に癒合不全を残すもののいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものが7級
  • 大腿骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの、脛骨及び腓骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの、脛骨の骨幹部等に癒合不全の残すもののいずれかに該当し、7級に該当しないものが8級
  • 大腿骨若しくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの又は腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すものが12級

腓骨の偽関節は、反対意見の存在を踏まえた検討を経て、腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すものは下位の等級に、腓骨の骨端部に癒合不全を残すものは非該当に、それぞれ変更されたことになります

これを踏まえて、裁判例や賠償交渉実務においては、基本的に改正後の等級表を用いて腓骨の偽関節について判断されています。これは、腓骨の骨幹部に偽関節を残す場合には、体重支持機能の約6分の1程度の減弱が生じ、抹消4分の1に偽関節を残す場合には、足関節の変形、不安定性、亜脱臼、運動障害及び疼痛を生じる可能性があるともいわれていることを踏まえたものです。

もっとも、後遺障害の内容及び程度がどのようなものか、例えば疼痛や歩行・立位に対する影響はあるか、あるとしてどの程度か、被害者の職業がどのようなものか、例えば移動をさほど伴わないデスクワーク主体のものなのか、肉体労働主体ものなのか等の個別具体的事情により、労働能力喪失に関する評価が異なり得るのは当然のことです。

下肢の短縮障害

したがって、損害算定時に採用する喪失率は、労働能力喪失率表を参照しつつも、被害者の方の

  • 年齢
  • 職業
  • 性別
  • 後遺障害の内容
  • 部位
  • 程度
  • 事故前の稼働状況

等を総合的に判断して認定しなければなりません。

前述した最判昭和421110日のほか、

最判昭和481116日集民110469

も、逸失利益の算定に当たり労働能力喪失率表に拘束されないことを明示しているところです。

これまで、交通事故による民事損害賠償においては、定型的な基準の策定・活用が、被害者間の公平や裁判の予測可能性に貢献してきた反面、過度に擬制的・画一的な認定を招きやすい懸念があることも忘れてはなりません。

喪失率の認定においても、具体的な損害を認定して損害賠償額を認定するという基本的な姿勢が重要です。

弁護士法人オリオン法律事務所のサービス

弁護士法人オリオン法律事務所といたしましては、後遺障害等級認定及び労働能力喪失率表を正確に理解するだけでなく、その限界、等級認定表や喪失率表に縛られない主張・立証により依頼者・ご相談者の利益を最大化することが務めだと考えております。

後遺障害逸失利益についてお困りの際は、弁護士法人オリオン法律事務所までご相談ください。

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